飯田 泰之先生、綾部孝司棟梁に聞く

内閣府規制改革推進会議の農林ワーキンググループ座長として、日本の経済構造をよりよく改革する鍵を握っている飯田先生に、日本の林業の現状をお聞きしました。戦後、禿げ山になってしまっていた山に植林をする「拡大造林」から60年が経過し、伐期を迎えている日本の林業には、大きな森林蓄積があります。問題は、その蓄積を供給できる体制が整っていないこと。国産材の強い需要を喚起し、省庁横断的な取り組みでサプライ側のボトルネックを解消すれば、日本の林業は再生します。そして「強い需要」となりえるのが、無垢の材を多く用いる、伝統木造建築の分野です。町場の大工までを含めた伝統建築の「広い裾野」がこの「強い需要」につながります。

飯田 泰之

明治大学政治経済学部准教授
内閣府規制改革推進会議委員、農林ワーキンググループ座長。専門は経済政策、日本経済論。

日本の山の現状を教えてください。

戦争中に燃料を供給するために大量に伐採された日本の山では、昭和30年代の拡大造林で一斉に植林されました。それから60年近くが経過し、今や、山の木は、木材として使える資源価値がもっとも高い、60年生に達しています。もう、細い木しか出荷できず、外材を輸入するしかなかった時期は過ぎており、国産桧で家を建てるということも、届かない夢ではなくなっています。

日本の林業の特徴と問題点は?

林業先進国のドイツやカナダでは、樹齢が適切にばらけているので、40-50年サイクルでの持続可能な林業ができています。一斉に禿げ山になり、一斉に植林をした日本の山では、これまで間伐材しか収穫できない期間が長く続いたため、JAS認証取得の費用をかけることもできない小規模な製材所しかないのが現状です。加えて、地形が急峻なため、山からの伐出コストは高く、国産材の供給体制はかなり脆弱な状態にあります。

課題解決のための糸口は?

供給体制の脆弱さが、日本の林業のボトルネックになっていますが、そこにイノベーションをもたらすのは、強い需要でしょう。国産材需要の強化が必要です。それには、林野庁、国土交通省、経済産業省が、省庁横断的に取り組んでいく必要があります。需要サイドに引きずられて供給構造が変われば、日本の林業は再生します。

綾部 孝司

有限会社 綾部工務店 代表
埼玉県川越市で、石場建てをはじめとする伝統的な木造住宅づくりを続けている。

大径木を活かす伝統木造
今こそ、出番(綾部)

大径木を活かす技術が戦後、眠っていましたが、森林蓄積が充実してきた今や、その技術を再び使うべき時期になっています。大径木は乾燥がむずかしいと言われますが、手刻みで仕口を加工すると、その工程の最中に芯の部分が乾いていくので、理にかなっていますね。

無垢の木ならでは!の
現代の木の建築を(飯田)

木造といっても使うのがCLT(Cross Laminated Timber 直行集成板)では、材料が木というだけで、鉄やコンクリートの代用品に過ぎません。伝統建築で木を活かしているのと同様、木を生かしたシンボリックな現代建築があってもいいのではないかと思います。一般の工務店やハウスメーカーが「あ、これをまねて、つくってみたい」と思ってもらえるようなものを、モデル事業として公共建築。

木をあますところなく生かす
大工の倫理観(綾部)

生き物だからこそ、木の一本一本にクセがあります。それを個性として生かし、木組みをするのが、大工です。大径木になればなるほど、そのクせを活かす設計と施工が不可欠ですね。木をあますところなく生かしきることを考えるのは、職人に、木を尊重するという倫理観があるからこそです。

伝統的な町並みを守るには
維持管理できる職人が必要(飯田)

日本らしい伝統的な町並みは、インバウンド観光において最重要の観光資源ですが、それを維持するには、選定保存技術従事者に限らない、より広い職人の裾野の存在が必須です。今、木造住宅の主流となっている在来工法は、第二次世界大戦後の復興の際に熟練工でなくとも短期間で建てられるように考えられたもの。これからは「木を木として生かしきる」伝統工法の仕事が増えていくといいですね。私は内閣府の規制改革委員会に携わっていますが、建築の専門分野からも、そういったご意見をいただきたいです。

修繕も新築も、同じひとつの技術
まるごと、未来に!(綾部)

伝統的な建築を修繕して町並みを未来につなげることは、100年前の技術で今、それを新築できる大工が居てこそ、できることです。伝統的な建築物を修繕するのと新築するのとでは、技術が違うわけではありません。大きくひとつの技術体系としてとらえ、その全体を評価していってほしいです。実際、一から材を刻んで新築を建てる経験している者は、修繕を行う際にも建物の全体を見渡しながら仕事する能力を身につけています。新築をのぞいた修繕技術だけを伝統的な建築技術と限定することは、先細りを招きかねません。やはり「伝統建築 工匠の技」のユネスコ無形文化遺産への申請は、文化庁が掌握している修繕関係の職人だけでなく、伝統建築にたずさわるすべての職人を包含する形であるべきですね。